運命ノ審判 >>Novels >>屑小説【オリジナル】

※この話は全て作り話です。方言や時代考証などに事実と相違する部分が多々ありますが、気付き次第修正していきます。
また、大日本意識革命軍 狂暴、並びに構成員の方々にも全く関係ありません。名前は同じでも別人だと思って下さい。(言い訳終わり)


ある日のスタジオ帰り。
僕達は、兵隊さんを拾ってしまった。

大日本意識革命軍 狂暴。この厳めしい名前のビジュアル系バンドで、僕、大原旭日はドラムを叩いている。
いつものようにスタジオでの練習(僕達は「射撃訓練」と呼んでいる)を終え、ロビーでタバコを吸いながら「このあとどうする?」とか話していると、狂暴の(狂暴な?)リーダーである藤銀次郎が、俺ちょっとパス、と言い出した。
「これから実家帰って、明日の法事に出なあかんねん。前も靴がないって欠席したやろ、今回こそは行かな。またオカンに怒られるわ」
「銀さん靴買ったの?」
「それもこれから。ほんじゃ、また木曜な」
そう言うと、リーダーはそそくさと帰っていった。
その背中を眺めながら、ギターケースを抱え上げた花形蹴鞠が小さくため息をつく。
「つまらんねぇ。今日こそ銀に『でらでかいパフェ』喰うかっつんを見せたかったのに」
「もういいよパフェ。思い出しただけで腹いっぱいだよ」
「想像だけで腹いっぱいなんて羨ましいなー」
僕がそう言うと、柘植勝良は端正な顔を軽くしかめてみせた。
「お前は年中腹減ってるもんなっ」
おおその通りだとも、と答えたところで、あたかも今思い出したかのように「あー腹減ったなー、なんか喰って帰ろうや」と続けると、二人はほらみろと言わんばかりに「はいはい」とつぶやいた。
いつも通りの帰り道、の、はずだった。

「で、晩飯、どこ行く?」
荷物を置くため蹴鞠の車に移動する途中、僕は勝良と並んで歩きながら晩御飯の内容に頭を悩ませていた。
「前はハンバーグだったからな、今日は違うのがいい」
「良く覚えてんな。んーじゃ、『富士そば』?」
蕎麦やだぁ、と僕がごねていると、ちょっと前を歩いていた蹴鞠が突然声を上げて視界から消えた。
「おゎっ!」
「なにしとんの」
二人でのんびりと歩み寄る。転んだ蹴鞠は座り込んだ状態のままぱたぱたと手をはたいていた。
「ったー何か落ちとった。つまづいたがね」
「落ちてた?何が」
そう言ってふと見ると、道の脇に深緑色の塊が横たわっているのが見えた。
その塊は、帽子から足先に至るまで濃いカーキ色一色の服を着ている男だった。気を失っているのか、蹴鞠の足が思い切りぶつかったはずなのに身じろぎ一つしない。
彼は長い棒らしきものをその腕に抱えこみ、歩道に両の足を投げ出すようにして、店屋のシャッターに背を預けるかたちで倒れ込んでいる。蹴鞠はその彼の足につまづいたものらしい。
一般的に言う「軍事ヲタク」である僕達は、その「カーキ色の服」が『旧日本陸軍将校の軍装』であることと、「長い棒らしきもの」が『旧日本陸軍が使っていたライフル』であることを一瞬にして理解した。
「ちょ…この人、なんで街中で軍服なんて着てんの?それに小銃まで」
「俺らと同じで軍オタなんじゃないの」
僕の疑問をそう片付けた蹴鞠の言葉に、勝良が機敏に反応する。
「俺はミリオタじゃないぞ一緒にすんな。…あれ?ちょっと待って、この三八式小銃…ホンモノじゃないか?」
気絶したままの彼の手に握られている銃をまじまじと見つめて、そんなとんでもないことを言い出す。見ただけで年式はおろかその真偽まで解かるのはミリオタじゃないのか?とツッコミたくなったが放っておいた。
「本物?ないない、どれだけオタだって流石に本物は手に入れられんでしょ」
だって銃刀法違反になっちゃうじゃん、そういって蹴鞠はあくまでもそれが偽物だと言い張っている。しかし、そっと顔を寄せて銃身の刻印を覗き込んだ勝良の意見は覆らなかった。
「ん、やっぱ本物の三八式だよ。菊の御紋の刻印もついてるし、それに、銃口から硝煙のニオイがするもん」
「うそだあ〜」
「でもさぁ、本物の旧陸軍の小銃がこんな新品の状態で残ってるとは思えないんだけどな。ついさっきまで現役で使ってました、みたいな新しさ加減じゃない?」
「けど、ついさっきまでって、そんなのこのヒトが60年前からタイムスリップしてきた、とかでもないと、おかしいじゃん」
そこで二人の言葉がハモる。
「戦国自衛隊じゃないんだからー」
そうやって二人があーだこーだと言っている中、僕はこの人の、帽子の陰に隠れた顔をじっと見ていた。どうも、誰かに似ている気がするんだ。そう誰かに。
「…リーダー?」
「え?」
「な、わけないよねぇ」
瞬間的に自分でそう否定したのだが、その言葉を打ち消すように蹴鞠がぽつりとつぶやく。
「でも確かに似とるね、銀に」
「…」
一瞬、三人ともが絶句した。
「と、とにかく起こしてあげようよ。こんなトコで寝とったら危ないし、それに、えーと、風邪引くしさっ」
「そだな。起きたら、何でこんなカッコしてるんですかって聞けばいいんだしな」
「ひょっとしたらリーダーのオチャメかもしれないしねっ」
珍しく機転の利いた蹴鞠の一言に勝良も僕も同意し、彼に声を掛けてみることにした。
しかし、一向に目を覚ます気配がない。少々荒っぽく肩を叩いてみても、耳元で呼びかけても全く反応がないのだ。まさかと思い彼の手首に自分の指先を押し当ててみたが、一応脈は打っている。
「困ったねぇ…」
本当にリーダーかどうかは解からないが、自分たちの知り合いに良く似た顔のこの人をこのまま道端に転がしておくというのもなんなので、彼をとりあえず手近な場所、蹴鞠の家に運び込むことにした。
僕がよいしょと背中に担ぎ上げても、蹴鞠の荒っぽい運転で揺さぶられても、彼は気を失ったまま気付く様子もない。それは気絶というより昏倒といったほうが正しいのかもしれなかった。

ここへ来るたびに、勝良は部屋中を見回して「相変わらずオタク臭のする部屋だな」と言う。
「うるさいなぁ。もうアニメは卒業したもん」
「うそをつけ。じゃあこの棚いっぱいに並んだガンダムのDVDは何だ」
「うそですごめんなさい」
一連の会話が終わったところで、半ば呆れながら二人にツッコんでやる。
「…お前ら、そのやりとり好きね」
「ま、蹴鞠んち来たらお約束だからね」
「ヤなお約束作んなよぅ」
ぶつぶつ言いながら、蹴鞠はベッドの上を片付けて軍服の彼を寝かせた。何かあったらイヤなので、大事そうに抱えていた三八式小銃と腰につけていた十四年式拳銃は彼の手から外して置いてある。
帽子を取った時、つばの内側に墨書きで『■■部隊 藤井 銀次 少尉』と書かれているのに気付いた。これが彼の名前らしいが、それまでリーダーにそっくりだ。所属部隊のところは墨が滲んでしまっていて読めない。
露わになった顔を見て、僕達は再び絶句した。本当に良く似ている。いや、似てるというより本人そのものに見える。
「でも、銀さん今日は実家に帰るんでしょ。今の時間、名古屋市内に居るはずないよ」
「大体、リーダーがスタジオ出てから俺たちが出て行くまでそんなに時間経ってなかったよね」
「んー、けまりを陥れるための壮絶なドッキリ、とかないよね」
蹴鞠は相変わらずトンチンカンなことを言う。ライブの時のMCと変わらないじゃないか。
「そんなもん誰が何のために仕掛けるんだよ、カメラもねーのに」
勝良のツッコミもなんだかおかしい。
「それ以前に、ドッキリだったらそろそろ起きて「天皇陛下バンザーイ!」とか「一億総玉砕じゃー!」とか叫ばないとダメでしょ」
そうやって枕元でくだらない事をさんざ喋っていても、彼…藤井少尉はぴくりとも動かない。
「で…どうするの?」
「どうするって」
「このひとが起きないと、俺寝るとこないんだけど」
「じゃあ寝るな」
そんなぁ、とアヒルのように口を尖らせた蹴鞠を無視して、勝良は傍らの背嚢に手をかけた。藤井少尉のものだ。
「ちょっと失礼しますよ、と…本人確認出来る物が出てくるかもしれんからね」
そう言って袋の中を検めてみると、まるでこれから戦場に行くかのような装備品が山のように出てきた。底の方からは銃弾の包みや短刀、小銃につける銃剣まで出てきて、僕達はちょっと驚いてしまった。
ただのミリオタがここまでやるか?と、終始無言で検分する中、僕達の目は暗にそう言い合っていた。
そして、転がり出てきた糧食や医療品を手にとって眺めていると、おかしな事に気付く。
「ねぇこれ。…消費期限が、昭和二十三年ってなってる」
「もう喰えないね」
「そうじゃねーだろ。…てかこれ、新品じゃね?」
本当に消費期限が切れてから何十年も経っているなら、蹴鞠の言うように喰えたもんじゃないだろう。しかし、勝良が僕の手から取り上げた缶詰はまだブリキがピカピカで、錆び付いた風でもない。
「新品なのに消費期限が昭和二十三年、って…やっぱりおかしいよね」
僕達は顔を見合わせて、更にベッドの上に目を向けた。

このひと、一体何者なんだろう?

 

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